一遍と今をあるく

哲学カフェ一遍

幸せな人生とは

ハーバート大学で1938年から、最初は742人の男性について、それらの男性の仕事、家庭生活、健康などを追跡した研究がある。その研究は、その後75年間に渡って今日まで続けられており、対象も彼らの子供達も含めて、2,000人以上になっている。最初の742人の男性は、2つのグループに分けて選ばれた。第一のグループは、ハーバート大学の2年生が選ばれ、第二のグループは、1930年代のボストンで最も貧しい地域の子供が選ばれた。彼らは、ハーバート大学の学生とは対象的に、水道設備もないような安アパートに住み、問題を抱えている家庭の子供という理由で選ばれた。最初の742人の男性の内、約60人が今も健在であり、ほとんどが90歳代になっている。

みねこ車中img50475年間に渡る研究成果から明らかになったことは、良い人間関係は人を幸せにし、健康にさせるということであった。良い人間関係とは、家族、友達、コミュニティーなどとよく繋がっているということであり、逆に言えば、孤独な人ほど中年以降の健康や脳機能の衰えが早く、寿命も短くなっているということであった。ここで良い人間関係とは、単に結婚しているとか、友達の数が多いということではなく、信頼し合っているパートナーや心を許し合え、困ったときに、心から頼りになる友人がいることである。50歳頃に最も良い人間関係が築けた人は、80歳になって最も健康であったという研究結果も出されている。

アメリカでは、2割以上の人が「孤独である」という報告がある。「人が孤独になる」原因は、貧困、対人関係、環境の変化など、様々である。原因に応じた対策が必要であり、政治の問題でもある。関西大震災による死者は、震災による直接的な死者よりも「孤独死」による死者の方が多いという。時の経過とともに、東日本大震災でも「孤独死」による死者が増えるであろう。

私達は、自分の利害に関することには敏感である。しかし、全ての人が自分の利害にしか関心がなければ、そこには、利害の衝突しか生じない。自分の利害や自分たちのグループの利害とともに、自分や自分達以外のグループの人達の利害に関心を持ち、尊重する気持ちと、そのための仕組みをつくることによってのみ、「孤独」を改善し、多くの人が「良い人間関係」を維持することができる。そのことが、結果として、自分自身が心身ともに健康で幸せな人生を送ることに役立つことになると思う。