一遍と今をあるく

哲学カフェ一遍

市場経済の発展と現代の政治家に求められる資質

 

人類の長い歴史の中で、多くの国民の衣食住が生存水準を上回るようになったのは、「産業革命」の後、先進国といわれる国々でも200年ほど前からに過ぎない。所得の上昇は、市場経済の発展と密接に関係している。市場の背後には、多くの人々や国々の協働関係や社会的な分業関係があり、あるモノの価格は、他のモノやサービスと相互に依存して決まる。私達が、日常使っているモノの原材料まで考えると、世界のほとんどすべての国の生産物を使っている。私達は、世界中の人々との協働・分業関係なしには、存続できないし、生活の向上も望めない。さらに、環境問題を考えると、協調は、不可欠である。

世界恐慌現代の政治家は、市場経済の長所と問題点も含めて、市場の仕組みを知らなければならない。たとえば、影響力の強い国が自国の産業保護という名のもとに関税を大幅に引き上げると、その悪影響は、全世界に広がり、やがて自国の産業にも悪影響を及ぼす。自国の利益しか考えない政治家は、結果として、他国だけでなく、自国にも損失を与える政治家である。

また、民衆主義の選挙制度のもとでは、国民は、減税と自分達の地域への財政支出の増大を求める傾向がある。不況期には、減税や国債・地方債の発行による財政支出の増大は正しいが、国や地方の借金は、将来、増税して国民の誰かが、必ず返済しなければならない。政治家は、どのような将来設計の下に、どのような増税を行うかを示すことが大切である。

人類は祖先から、愛情や信頼といった感情とともに、自分たちと異なる考え方を持つ人々や集団への憎しみや恐怖といった感情を受け継いでいる。憎しみや恐怖心は、それらが事実にもとづくものであろうとなかろうと、人々の不安を増大させ、興奮させ、理性的な判断を失わせる。人は、集団においては、理性よりも感情が優先する。現代の政治家は、現状を正しく認識するとともに、国民や住民、将来の世代に対して理性にもとづいた明るい展望を示さなければならない。国民の憎しみや恐怖心をあおり、それによって自分達の集団の利益になるように国民を誘導する政治家は、最も危険な政治家である。

最後に、株価が暴落し、何百万人という失業者にあふれた1933年という世界大恐慌の最中に、アメリカ大統領に就任した、F.D.ルーズベルトの就任演説の一部を紹介したい(意訳)。「まず、最初に、私の信念を述べておきたい。私達が最も恐れなければならないことは、理性にもとづかない恐怖心そのものである。恐怖心こそが、私達が前進するために努力することを麻痺(まひ)させてしまうのである。」