一遍と今をあるく

哲学カフェ一遍

Ⅲ. CMLとGIST

慢性骨髄性白血病(CML)は白血球幹細胞の異常増殖によるもので、第9染色体にある遺伝子bcrが第22染色体にあるablの隣に転座して、bcr-ablという新遺伝子を構成し、これが新しいキメラタンパク質を合成するところに原因がある。

 

慢性骨髄性白血病(CML)

CMLの発症率は人口10万人当たり年間1~2人と極小だ。もっとも罹った本人にとっては「極小」ではない。

他方、物理学者での患者でもあるT先生から教わった「GIST(Gastro-Intestinal Stromal Tumor)」腫瘍は、消化管粘膜下にある「カハールの介在細胞」に由来する肉腫で、やはり発生率は1〜2人(対人口10万・年間)だ。

 

bcr-abl遺伝子が生みだすキメラタンパクを選択的に阻害するCMLの特効薬「グリベック(イマニチブ)」は1998年に米国で臨床試験が始まり、2001/5にFDAが承認している。

誰が遺伝子構造の類似性に着目したのかわからないが、2003/5には日本でもGISTの特効薬としてグリベックが承認されている。

最近「Transrelational Research」ということが言われているが、血液病理を専門としてきた私も、かつては「平滑筋肉腫」と呼ばれてきた「カハールの介在細胞」腫瘍が、CMLと共通の特性を持つとは思ってもみなかった。(念のために、GISTにはCMLの特徴である「フィラデルフィア染色体」はないようで、DNAレベルだけの分子異常だと思われる。)

 

「買いたい新書」の書評NO.351古川健司「ケトン食ががんを消す」

 

 

を書いていて、今でも「血液病理学」ががん治療を牽引していることを知り、嬉しく思った。

京大名誉教授の本庶佑さんが、何かの雑誌対談で「要素還元型の研究はもう終りで、これからは既存のパラダイム間の共通要素を見つけ、それを元に新しいパラダイムを生みだす時代だ」と述べていた。新発見のbcr-ablキメラタンパク質の抗体を作成して、免疫組織化学的に多様な腫瘍を染めたところ、CMLだけでなくGIST腫瘍でも陽性反応が認められ、両者に著功する単一の特効薬が見つかったということだろう。

物事は根源的なところでつながっている、という感を強くしたところだ。面白い時代が始まったと思う。

 

もともと爬虫類以下の脊椎動物では、造血の主座は腸管粘膜下組織で、胃粘膜下の造血巣が後に独立して脾臓となる。もしこの「間葉系幹細胞」がCMLとGISTの共通起源細胞だとすれば、GISTの部位別発生率もCMLと共通のキメラタンパク質の存在も、統一的に説明できるだろう。