一遍と今をあるく

哲学カフェ一遍

森に包まれた都市づくり

国道11号線を松山市内から東温市の方へ走ると、遠く皿ヶ峰を望む方向に田園地帯が展(ひろ)がっていく。こののびやかな景観の入口に、この夏、「マテラの森」がオープンした。ウェブサイトには、青空いっぱいに伸びた梢(こずえ)の緑の中に、「自然公園型ドライブイン」というキャッチコピーがおどっている。特長は何よりも自然公園型。ドライブインを構成するバーベキューコート、ドッグラン、駐車場、自然公園のそれぞれ四つのロゴマークが空に貼り付けてある。

敷地は17,000平方メートル。ほぼ「坊ちゃん球場」全体の広さの中ほどに、森がある。ケヤキ、モミジ、ニレ、イチョウ、サルスベリ等の成木を一日一本の割合でていねいに植栽。いま50本ほどの落葉樹が、深い森をつくっている。木々の根元には遊歩道が整備されており、だれでも自由に森に分け入り、四季のうつろいをじっくり楽しむことができる。梢では野鳥の巣づくりも始まっていた。ドライバーはもとより市民みんなの公園であることを第一義としているので、駐車場も森の散策も洗面所のあるレストハウスの利用もすべて無料である。支配人の高橋志典さんに伺うと、この「マテラの森」はオオノ開發(株)の経営哲学のシンボル的な存在です、といわれた。

は園内をゆっくり散策してみた。皿ヶ峰から吹き降ろす初秋の風が田園の稲穂をそよがせ、木々の梢をゆらしている。森を見上げ、こんなことを想った。

森はゆっくりとたくさんの時間を蓄積させ、さまざまないのちを育む大地のゆりかごである。山国の日本では、森は古来より人々の信仰の対象であった。私たち日本人は森から学び、そのかかわりのなかで、いわゆる木の文化を育み暮らしてきた。しかしこのかかわり方が、戦後の経済発展のなかでゆがめられている。いま森は病み荒廃がすすんでいる。それは森への畏敬の思いと感謝を忘れた私たちの姿でもある。

マテラ豚「マテラの森」は、森に包まれて暮らす都市づくりを目指すオオノ開發(株)から私たちへの提言でもある。マテラ石のパウダーで育てた「マテラ豚」を使ったウインナーやソーセージ、さらにバーベキューが大変美味で健康にも良く、大好評だと聞いた。石も豚も森もみんな自然(じねん)としてのいのちを宿している、という日本人古来の思想からいえば、「マテラの森」は、いわば石の文化と木の文化の新たな融合の場所でもある。そんなことを想いながら、美味を楽しめることも「マテラの森」の魅力なのだ。