一遍と今をあるく

哲学カフェ一遍

米国の恩師のこと

米国の恩師のこと 

顔見知りの血液病理学者に国際学会で会ったら、恩師の給料の高さをうらやましがっていた。ハーバード大医学部をトップで卒業し、学部長秘書と結婚した医師だが、誠実すぎて政治力がなく、学問的には実力がない年下の男が自分の上になったことが、NCIを去る原因のひとつになったのだろう、と思う。アメリカの家は耐久性があるから、車で10分ほどのところにある閑静な住宅地にあった広い家は 高値で売れたことだろうと思う。歩道を少し歩くと、細いシナチクに似た竹のやぶがあった。自生種ではなく、日本ファンが園芸用に植えたものではないかと思った。

ワシントンのポトマック河畔の桜は有名だが、あれは元々日本から苗木をプレゼントしたものだ。太平洋戦争が始まった時、海軍兵学校を除いて英語は敵性語として、使用禁止となった。その点アメリカは偉い。桜を切らなかったし、心理学者のチームを集めて(日本語に堪能な学者もいた)日本人の心理特性を研究し、飛行機から播くビラや占領後の戦略について研究させた。その成果がルース・ベネディクトによる「日本人論」の名著「菊と刀」(1946)である。

この前、堤寛さん(藤田保健衛生大学教授)の退任祝賀会に出ての帰りの新幹線内で、頭が白い老人の外人さんが立っているのを見かけた。私の席から3〜4m先だ。外国人に敬意を表して席をゆずろうとしたら「ノー・サンキュー」という。私は愛用の登山靴を履いているので、1時間くらい立っていても平気だ。理由を聞いたら「隣りにレディーが座っているから」という。自由席だから誰が座ってもよいのに。

変な理由なので「貴方はゲイかね」と聞いたら、大声で「ノー」と答えた。それがおかしくて列車の中で思わず大声で笑ってしまった。

そのうち、若い女性が降りて、空席ができたら、その男が移動してきた。聞けば米陸軍にいて、臨床心理学の専門家だという。激しい戦闘があると「戦争神経症」の兵士が出るから、米軍には臨床心理学者がいることを初めて知った。ジョン・フォードの映画「コレヒドール戦記」を見て、海軍士官は戦闘任務以外の時にはネクタイを締めていることを知った。

米軍の陸軍と海軍では士官の階級名が異なるのでややこしいし、私も士官だったと思われる彼の階級まではたずねなかった。それに軍事に関してはあまり興味がない。

士官だったのなら、年金もたっぷりあるはず。宮島口のひとつ手前の「大野浦」の町に家を買って住んでいるという。あそこは眺めも良く、双眼鏡があれば厳島神社の朱の大鳥居がよく見える。日本三景のひとつだ。

日本の普通のサラリーマンでは今では手にはいらない場所だ。

何しろNIHの広大な敷地の向かい側には自動車道を隔てて「海軍病院」がある。がんになれば、国立がん研究所の附属病院で最善の治療が受けられるのだ。