一遍と今をあるく

哲学カフェ一遍

胃酸とピロリ菌

5/5「毎日」が「科学」欄に「ピロリ菌原因、胃がん以外も」という記事を載せていて、のけぞった。この人は小保方晴子と同じ「早稲田理工学部」卒だが、医学に対する基本知識がまったくない。そもそも胃酸は、pH1~2の強酸で、小保方がSTAP細胞の誘導に必要としたpH5.5のレモンジュース程度の弱酸とは全く異なる。小保方の主張が事実なら、胃粘膜からは「奇形腫が多発する」はず。私はこの点の矛盾を初報から感じていた。

その程度の基礎知識もなく、須田記者は当初は「STAP礼賛」報道を続け、ネットの批判記事を見て、「ストーカー的批判報道」に転じ、そのかいあって、著書が日本科学ジャーナリスト賞受賞した。それはそれでいいと思う。

ぴろりT.H2だが、5/5「毎日」の記事では、彼女が「ピロリ菌」という言葉について、まったく無知であることをさらけ出している。

1980年当時、pH1.0〜2.0の胃の内部では、いかなる生物(微生物)も、「生存不可能」と信じられていた。それを西オーストラリア・パースの病理学者ウォーレンと内科医マーシャルが、1980年代に胃に微生物が存在すること、それは胃液中の尿素をアンモニアに変換させることで、周囲の環境を中性に保っている、ことを証明し、この菌が急性胃炎の原因になることを自ら培養菌を飲み、胃生検を行う人体実験で証明した。

彼らには2005年度の「ノーベル生理学・医学賞」が授与された。

日本の学者の中で、受賞以前に、彼らの業績を正当に評価したのは、高知医大名誉教授(岡大卒)の緒方卓郎だけである。須田記者が「資料提供」を受けている朝香正博(現北海道医療大学学長)など、「後だしジャンケン」で本を書いているにすぎない。

緒方卓郎「ヘリコバクター・ピロリ菌」講談社ブルーバックス、1997/8

伊藤慎芳「ピロリ菌:日本人6千万人の体に棲む胃癌の元凶」

祥伝社新書、2006/3

浅香正博「胃の病気とピロリ菌:胃がんを防ぐために」 中公新書、2010/10

「ヘリコバクテル・ピロリ(Helicobacter pylori)」というのがオリジナルな学名で、ピロリ(pylori)は「ヘリコバクテル」属の種を示す形容詞にすぎない。緒方本によれば、1989年に正式学名として採用され、それ以後変更がない。