一遍と今をあるく

哲学カフェ一遍

6南無 岡田顕三翁  (三)

(三)

『これが僕の学生時代の副手だった八木さんです』とその人に私を紹介した。『初めまして、言語の八木です。どうぞよろしく。いつもお邪魔しています』。

この青年は髪がふさふさとして、彫の深い貴公子然とした顔をしており、見るからに好感のもてる人だった。家永の飲み友達らしく、早速、暑い暑いと言いながら、近くに立っていた紫姫に手を挙げて、『ここへも一つ』とジョッキを注文した。女の子が『大ですか、小ですか』とたずねると、家永が『勿論わかってるだろう』とにたりとして、冗談とも本気ともつかぬ口調で念を押した。

『八木さん、この人、同窓ですよ。顔に見覚えがあるでしょう。八木さんの一年先輩の英文で、市川さん(市川三喜)の弟子だったんだから』。

『うん、そう言われればね』と生半可な返事をすると、すかさず、家永が、『うちの教育部の高間さんです』と紹介して、自分のジョッキを飲み乾した。高間さんと名刺を交換したとき、家永が注釈を加え、『高間芳雄というのは本名で、八木さんも少し知ってると思うんだけど、高見順(右絵)というのがペンネームですよ。コロムビアは給料が安いから、小説でひと儲け‥‥』。

そこで、二人は、顔を見合わせて笑った。僕もそれに釣り込まれ、今度は三人で笑った。

『いや実はさっき、西条八十先生のことを話してたんですが、噂をすれば影とやらで、詩人のことが話題になっていたところへ、高間さんが現れたわけですよ』と家永君が話の橋渡しをしてくれ、『高間さんは西条先生のこと、どう思いますか』と水を向けた。