一遍と今をあるく

一遍上人堂通信

一遍上人堂の扁額

DSCF4680平成28年4月15日、上人堂に扁額が掲出された。ハバ1m35㎝、タテ50㎝、厚み3.6㎝のケヤキの板である。

揮毫は書家の山本良秋氏。氏は昨年の11月初旬から構想を練り、一遍上人絵伝(中央公論社)を精読。改めて一遍の生涯を辿るとともに、絵巻の詞書(ことばがき)に書かれた「一遍上人」の文字を詳しく調べた。詞書は四人の能書の公卿の合筆だとされているが、氏は上人堂の扁額にふさわしい書体について、半月余り熟慮を重ねた。

 

 

 

DSCF4687「一遍」の「一」は王羲之の行書を念頭に、一遍が凛と胸を張り、行く先を迷いなく見つめながら歩く、その一筋の道を表現することにした。とはいえ、道はまっすぐの一本道ではない。紆余曲折し、山も川もさらには海をも渡る道である。「すーっ」と横に一書きにしてはならないと思った。このことを肝に銘じ、氏は、「よいしょ、こらしょ、どっこいしょ」と要所要所に力を込め、一遍の「一」は、人生と同じ「でこぼこ道」であり、修行の道であるという思いをこめ、「一」を書いた。

 

 

 

 

DSCF4685「遍」は、一遍の身体そのものである。武士の血を引く頑健な体幹と質実剛健な気質の表現を字に託した。詞書の「遍」は部首の「しんにゅう」がそれぞれ微妙に異なっていて統一されていない。そこで氏は、足の動作を表すしんにゅうをより逞しく、また体幹の扁には無類の力強さを込めた。

「上」は筆順二画目の終筆を上に撥ね、揮毫の五文字の中心としての存在感を出すようにした。

「人」は、全体としてのびやかな印象を心がけたが、一遍という人物の人間としての勁さ、優しさ、深さを表現するため、終筆を流すのではなく、人の内部へ向かう方向へ、すなわち内側へ撥ねることにした。

 

 

DSCF4688「堂」は、行書と草書のそれぞれの特長を生かし、うつろいゆく時代の流れを表すことにした。

擦りうるし技法のケヤキ板に彫りこまれたこれらの五文字は、専門の職人の技で金箔押しが施されている。