一遍と今をあるく

ギャラリー

「シロハラ」

遅効性体験

中学生のとき、跳び箱の回転に失敗して右足の腓骨を骨折しました。一年上級のKが、見舞いに「シナイ」を1羽持ってきてくれました。愛媛県の南予地方ではシロハラのことをシナイと呼びます。竹ヒゴを使って自作した大きめの鳥籠に入れて練り餌を与え、掃除なども丁寧にして飼いました。シロハラは一言も声をたてず、暴れたりすることもなくおとなしく籠の中で暮らしていました。2ヶ月ほど立ったある日の深夜、「キッ、キッ」と2声だけ大きく叫びました。それから数日後、籠の中で冷たくなっていました。冬の間だけ雪の少ない地方に渡ってきて、4月から5月ごろアムール川下流域やウスリー地方に帰って子育てをする「冬鳥」であることなど、知るよしもありませんでした。大事に飼っていたとはいえ、ひどい虐待だったのです。中学生の私は、シロハラが死んでも残念には思いましたが悲嘆にくれるようなことはありませんでした。70年近く経った今ごろになって、シロハラに出会うたび、心の奥が痛みます。こんなに遅くまでその出来事が効いて来るとは驚きです。

シロハラは、毎年拙宅の庭にやって来ます。世代が代わっても毎年の来訪です。干し柿などを提供して歓待しています。〔2016/02/29記〕

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干し柿を食べるシロハラ (2011/04/10庭にて)

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シロハラ (2016/01/11庭にて)

シロハラ  スズメ目ヒタキ科ツグミ属

Turdus pallidus 全長25cm 冬鳥

腹部が純白ではないが灰色がかった白色であるため、この名がある。

室町時代、ツグミ類を「しなひ」と言い、江戸時代後期になってシロハラを「しなひ」と呼ぶようになったらしい。愛媛県南予地方には、今でも古い呼び名が残っていることになる。ちなみに、白い眉斑があり胸腹部が茶色であるため「マミチャジナイ」という標準和名のついた同じ仲間の「旅鳥」がいる。

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左脚を傷めて使えないシロハラ(2015/01/04松山市城山にて)

同じ場所で2ヶ月以上暮らしていた。一般に野鳥の脚は飛び立つとき地面を蹴るために使われる。外敵から襲われる危険性は高いものの、主に地上で採餌するシロハラは、食べることには困らなかったようである。

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マミチャジナイ(2006/04/17松山市にて)旅鳥

眉(まみ)茶(ちゃ)じない(しない)から来た標準和名。