第22回えひめふるさと塾 講演要旨
松山の「ええとこぞなもし」
私が六五歳の時である。当時、「人生は八〇年」と言われていたが、まだ一五年もあると思い、自分の住む松山の「ええとこぞなもし」再発見の小さな旅をやってみようと決意した。それから二五年が過ぎた。今は、九五歳まで小さな旅を続けるぞと、自分の心に言い聞かせている。
その小さな旅の交通手段は自転車である。私は自転車にまたがり、西に向かって、街の中を駆け抜けた。三○分ほどすると瀬戸内海に面した三津という古い港に着いた。港の防波堤に魚の干物が並んでいた。ポンポンと音を立てながら、対岸から無料の渡し船がやってきた。格子戸の美しい古い町並みを、二人のおばあさんが歩いており「今朝はどこへ行くんぞな」「松山のお城下の病院へ行ってこうわい」「気をつけておいきな」というやりとりをしていた。美しい日本の原風景を見る思いだった。驚きと感動が入り混じった体験をして、家路を急いだ。家に帰ったその晩から、心を打った感動の出来事をノートに書き留めることにした。このような結果、何冊ものノートがたまった。
ある日、地元の小さな出版社の社長がこられて、私のノートを整理して本を出したいと申し入れがあった。「地域文化の振興なくして日本文化の発展はない」というのが、女性社長の持論である。生涯学習の進展には、このようなスポンサーが、どんどん輩出してくださることを心より願う。
しなやかな感性と求めてやまぬ探究心
『ええとこぞなもし』シリーズは二○年目で今までに一○冊発刊している。楽しい物語はすべて入れたつもりである。昨年『松前界隈はええとこぞなもし』を発刊したが、松前町では「ふるさと納税」に特産品を送るのではなく、ふるさとを愛してもらうため、この本を送るつもりであると聞いた。さらに成人式でも出席者全員に本を送ると聞いた。私のささやかな生涯学習は、いま新たな展開となっている。
八五歳まであと二ヶ月。現在、一一冊目の『城北の奥の細道はええとこぞなもし』を執筆中である。自転車で出かけ、写真を撮り、夜は部屋に閉じこもって、地図を書き、スケッチを描き、私なりの至福のときを過ごしている。依頼された講演では、自分が心から感動した話をしている。自分がいつも驚きの心と感動を持ち続ける限り、九五歳まで頑張れると信じている。しなやかな感性と求めてやまぬ探究心は、生涯学習の要諦だと思っている。
H27.11.21(土)国際ホテル松山 (文責 青山 淳平)