一遍と今をあるく

えひめふるさと塾

第16回えひめふるさと塾講演「肱川あらしと東京ドーム」講師 大西 英記 先生

第16回えひめふるさと塾 講演要旨

夕やけこやけライン

「夕やけこやけライン」とは双海町から大洲市長浜へとつながる国道378号線の愛称であり、拡幅工事が完成した平成5年頃、全国公募によって決められた。この「夕やけこやけライン」をドライブすると、童謡「夕焼け小焼け」を思い出す。夕焼けとはよく晴れた日の夕方に、西の空が茜色に染まる現象であり、小焼けとは沈んだ太陽に照らされて、空が茜色に染まる現象である。「夕焼け小焼け」の2番の歌詞は「こどもがかえったあとからは まるいおおきなおつきさま ことりがゆめをみるころは そらにはきらきらきんのほし」であるが、夕焼けの後の夜空に月や星が輝いて、まるで明日の天気は晴れと予想しているかのようである。

第16回このような天気の移ろいを予想することわざに「秋の夕焼けは晴れ 秋の朝焼けは雨」がある。夕焼けは西の空が良く晴れているため明日は晴れ、朝焼けは晴れの天気が東に去り、西から気圧の谷が接近することを予想している。これを「天気東漸の理」などと言う。

なぜ夕焼け空は赤い?

夕方の太陽光は正午頃に比べると、地球をとり巻く大気層を通過する距離が30~40倍ほど長くなる。太陽光を波長で分けると、紫の散乱量は赤の16倍と言われ、紫や青色は空気分子や塵などにぶつかり散乱してしまう。しかし、波長の長い橙や赤色は散乱しにくいため地上まで届き、茜色の夕焼け空をつくる。

夕焼けは“夏の季語”

朝焼けは太陽光がまぶしく、空気中の塵なども少ないため茜色にはあまり染まらない。また朝焼け雲は上方から焼けるため、低い雲などは暗く見えることがある。一方、夕焼けは空気中の塵などが朝よりも多くなるため、赤色の散乱量が多くなり鮮やかな茜色の夕焼け空が広がる。そして、夕焼け雲は下方から焼けるため鮮やかな茜色に染まり、夕焼け空をさらに美しくしている。

雲は10種の基本形があり、夕焼けを彩る役者である。正岡子規は季節を代表する雲を「春雲は綿の如く 夏雲は岩の如く 秋雲は砂の如く 冬雲は鉛の如し・・・」と写生しているが、この中で夕焼けが最も似合うのは秋雲だと思う。また清少納言は「枕草子」の書き出しに「春はあけぼの 夏は夜 秋は夕暮れ 冬はつとめて」と表現し、秋の夕暮れは太陽が沈んだ後の薄明から黄昏どきまでが最高の時間帯だと言っている。

第16回2しかし、俳人のバイブルと言われる歳時記を見ると、1年を通して見ることができる夕焼けがなぜか夏(晩夏)の季語になっている。その理由を歳時記で調べると、夏の夕焼けは「特に大規模で美しく、荘厳な光景で西方浄土のことが思われる」などと説明している。そこで夏の季語になった理由を気象学的に見ると、北半球に位置する日本付近は夏至の頃が最も昼間の時間が長くなり、地球をとり巻く大気が暖められて対流圏は夏が最も厚くなる。このため、夕日から射し込む太陽光は1年のうちで夏が対流圏を通る距離が長くなり、日永の影響も加わって、散乱した赤い光がより多く地上まで届くことになる

つまり、夕焼けが特に美しく、最も長く楽しむことができる季節が夏である。このため、夕焼けが夏の季語になったと考えられる。

肱川あらしと東京ドームの関係

大洲盆地では晩秋から初冬にかけて、穏やかに晴れた夜、地表の熱が奪われる放射冷却現象で冷気と盆地霧が蓄積される。この冷気と盆地霧の高さは300mくらいまで達するため、約320mの冨士山(とみすやま)は雲海の中に浮かぶ島のように見える。そして、大洲と盆地の冷気湖と長浜との気温差が2~3℃になると、冷気が霧を伴って肱川河口に吹き出す。この局地風のことを肱川あらしという。

肱川あらしは、大洲と長浜の気温差2~3℃になることが発生のトリガとなるが、風が吹く原因は気圧差が大きくなることによる。気温差3℃が水平風を発生させる効果について簡単に説明すると、まず気温差が3℃あると0.3hPaの気圧差が生み出す。そして0.3hPaの気圧差が約8m/sの風を生み出し、肱川あらしとなる。

一方、東京ドームは「低ライズケーブル補強空気膜構造」という方式で造られ、28本のケーブルで卵型になっている。そしてドーム内は加圧送風機で3hPaだけ気圧を高くし、畳2万枚の広さ、重さ約400tの屋根を支えている。これが「エアドーム」と呼ばれる理由である。

気圧差3hPaは高度差にするとビル1階から9階程度の違いであり、人体に感じさせるほどの気圧差ではない。しかし、気圧差3hPaが発生させる水平風は単純に計算すると24.5m/sにもなる。実際54か所ある出入り口は空気の動きを少なくするため回転ドアになっており、フロアの気圧を上げて、ドア付近の気圧差を少なくしているがやはり強風が吹くことになる。この回転ドア付近の強風は、肱川あらしの強風と同じ原理によって吹いている。

H26.11.15(土)国際ホテル松山南館 (文責 青山 淳平)