一遍と今をあるく

えひめふるさと塾

第3回 えひめふるさと塾講演「現代を見つめる5つの視点」  講師 益 基 先生

第3回 えひめふるさと塾 講演要旨

現代をこれからの20年とし、規制緩和、少子高齢化、環境問題、グローバル化、IT化の5つの視点から考察し、ふるさと愛媛の明日への展望としたい。

第3回えひめふるさと塾まず、規制緩和であるが、日本では「親方日の丸」の官僚主義の非効率性が経済成長を阻害しているので1980年代以降に始まった。電信電話公社、国鉄、日本専売公社、さらに90年代末から2000年代にかけて行われた郵政三事業(郵便・簡易保険・郵便貯金)の民営化が特筆すべきものだ。これらの民営化はまだ課題を残してはいるが、民間企業の参入を積極的に促進し、自由競争に基づく市場経済を一層すすめてゆく市場原理主義(新自由主義)の経済政策は、これからも進展してゆく。小さな政府と規制緩和は時代の大きな流れである。国際的にはEPA(経済連携協定)、FTA(自由貿易協定)、そしてこれからの重大な政策課題であるTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加も当然ながら内外の規制を取り払い、経済活動のボーダーレス化をもたらす。こうしてヒト、モノ、カネ、情報のグローバル化は規制緩和を一層加速度的に促すのである。少し分野をしぼってみると、電力の自由化と通信事業の開放、大規模小売店舗法の廃止とヤフーや楽天といったネット市場のシェア拡大、医薬品の部外品化によるコンビニ販売、農業への株式会社の参入、医療の規制緩和に伴う海外資本の参入と自由診療等々枚挙にいとまがない。

日本の少子高齢化は世界最速で、もたらされる問題は極めて深刻である。2055年には日本の人口は30%減少して8900万人、生産年齢人口は43%減の4500万人、65歳以上の高齢者は3600万人、総人口の41%となることが予測されている。愛媛県でも25年後には人口が20%減少することが確実だが、これはすべての都道府県も同様で、経済社会に大きな影響が予想され、地方分権は厳しい状況に直面することになる。そこで少子化対策は急務である。合計特殊出生率を先進国で見てみると、アメリカ、アイルランド、フランスは2.0を上回っており、スエーデンとフィンランドが1.9、イタリア、ドイツ、そして日本が1.4である。ここで注目すべきなのは、かつて人口減に悩まされていたフランスが公的支援を充実させ、「子だくさんの国」へ転換していることである。日本も少子化対策を早急に実施するとともに、長寿社会を前提とした、医療、介護、交通、住宅、エネルギーなど相互補完的なスマートコミュニティの形成、70~80歳代現役社会の実現など制度改革や法整備が求められている。

環境問題の解決もこれからの大きな課題である。日本は毎年春先に黄砂に悩まされるが、中国が1人1台の車社会になると黄砂どころの被害では済まなくなる。環境問題は地球規模で考えなければならない。過去百年の間に等温線は北上し、平均気温の上昇は台湾の高雄市で2度、鹿児島市2.4度、宇和島で1度、千代田区3度、2.7度の札幌ではさくらんぼが栽培できるようになった。愛媛には環境問題に取り組んできた歴史がある。住友金属鉱山第2代総理事の伊庭貞剛は一年間に100万から200百万本の植林をして緑深い山系を護っている。これは現代に通じるCSR活動であろう。最近、日本でもロハス(Lifestyles Of Health And Sustainability=健康と環境を志向するライフスタイル)への関心が高まっている。グリーン都市計画、自然食品、環境配慮住宅、省エネ商品等、日本のロハス市場は15兆円だと試算されている。また自然豊かな愛媛県はロハス県でもあり、このような面からふるさとを見つめなおし売り出してゆくことも大切である。イノベーションの視点からも空飛ぶ自動車、地震・振動防止砂、ロボット電磁波洗濯機、台風移動センサーなど実用化の近い最先端技術を日本は開発中であり、環境立国として世界でも存在感を強めていくことになる。

第3回えひめふるさと塾 (2)グローバル社会の変化を数値で検証すると、1989年に20兆5千億ドルだった世界のGDPは、2011年には65兆ドルへ、世界の輸出総額は4兆ドルから15兆ドルへと増加している。証券・金融・商品等、グローバル化は急速にすすみ、国際経済の動向に様々な複合的な要因がからみあうようになった。2008年9月のリーマン・ショックから始まった金融危機は、国際的に負と不信の連鎖を拡大し、世界中に深刻な影響をもたらし、世界経済はいまだこのショックから立ち直ってはいない。グローバル化の重要な要因は、市場経済、文化の多様性を内包する民主主義、そして新興国の台頭である。21世紀はグローバル化がさらに進展する。ECから拡大EC,そしてEUへと歩んできた欧州統合の歴史は、いまユーロ危機で揺れてはいるが、27か国にまで拡大した加盟国はやがて政治統合へ向かうであろう。

IT化であるが、これはまさに日進月歩の世界である。ITは今日、経済成長の源になっており、これからも絶え間ない競争と技術革新によって市場の持続的な拡大と成長がつづいてゆく。いま一台1500ドルのパソコンは、近いうちに100ドルの時代がやってくる。新型の機種もどんどん開発され、2015年までには世界の50%の人が手軽な価格で簡単にインターネットに接続できる環境が整うだろう。クラウドコンピューティングの時代も始まっていて、IT化はビジネスモデルや企業戦略をさらに大きく変えていくことになる。

地球は年々小さくなっている。温暖化を防ぐ低炭素社会への転換、食糧・水不足への対応は欠かせない。日本はどうか。もともと資源が乏しく国土は狭い。いわば小さくなった地球を先取りした国である。高齢化もずば抜けて進んでいる。いま置かれている状況を世界の縮図と受け止め、新しい産業を立ち上げて世界をリードし、「課題先進国」として世界の先頭に立つチャンスがある。

平成24年9月15日 愛媛銀行研修所